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『薔薇をさがして‥‥』

   
今江 祥智(文)/宇野 亜喜良(画)/BL出版

『アキ、目玉ベーコンひとつ。』
小さいけれど、昭夫にはよく聞きとれる声で母さんが言う。
昭夫は、手ぎわよくベーコン・エッグをつくると、厨房の“窓口”から手渡す。
母さんのいるカウンターとの間の声に、しつらえた受け渡し口なのである。昭夫の背丈からも、小柄な母さんにとっても、ちょうどいいところにつけたものなのだ。

居酒屋の厨房から始まる。アキこと昭夫と母の位置関係を覗き込んだ感覚がある。まるでテレビドラマの予告の様でもあって、これから展開される場面に乞うご期待の感じだ。ドラマでも小説でもエッセイでも最初が肝心と思う方は多いはず。一行もしくは数行を流し読みしてパラパラとめくりながら最後のあたりまでイッキにいくが、そのまま結論を読まないのは言わずもがな。だけど、とっかかりで好きか嫌いかの判断をしてしまうのは本当の本好きとは言わないかも…。

『薔薇をさがして』の出足は好調、ここでグッと読者をひきこんだ。そして設定が面白いのである。昭夫は13歳、とくる。13歳とならば世間では中学生。夜の居酒屋で働いているのだからチョッとその辺の中学生の話と違うぞ、となる。昭夫の父は、事故で亡くなった。残された母と子が生活の為に居酒屋を営むのだが、中学生で在る事を隠すために、厨房の“窓口”が必要だったのである。客のオーダーは母の声に乗せて昭夫の厨房へと届く。昭夫は料理を作る。フライパンを揺り動かしながら、次のオーダーは何だろうと予測する。当たる事もあるし外れることもある。この小さな窓から料理を差し出す時に客をチラッと見て、客の様子を見るのが癖になっていた。

或る日、昭夫の同級生と思われる女の子がやってきた。後ろ姿からそうだと思ったのだ。毎晩、厨房で料理を作りながら期待という感情が芽生えていく。一週間後、二週間後とその女の子を待っている昭夫の気持ちが少しずつ変化していくのだ。昭夫の女の子に寄せる淡雪のような気持ちみたい。これが13歳、遥か昔にあったかもと胸の奥がポワポワと温かく騒ぎだす。

【紹介者あとがき】

13歳をキーワードに本を探せば村上龍氏の『13歳のハローワーク』がある。世の中の職業を紹介したものらしい。大人への入り口に立つ前に様々な職業を知ってもらって選択してもらうというもの。否応無く厨房に立って料理を作り続けるだけの昭夫の世界観とは裏腹なものだ。自分の為の仕事と生きるための仕事とは異なるものであるのかもと納得し、13歳にしてやられた感がする。

13歳、昭夫と母の物語が、苦労話に固執しているのかと思いきや全くそうでない。暗い明るいとかの次元じゃなく、人生を『待つこと』に焦点をあて幻想的に仕上がって、さらっとしている。亡くなった父との会話も魅力的、そして客を待つ、または特別の客を待つのも力まずに日常の生活リズムに織り込まれている。しばらくは今の生活を続けよう、7〜8年は続けてみようと、これも淡々とした気持ちで終わっているのだから、これも悪くないな、と本を閉じた。

まま
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